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在学生活躍ニュース6 「僕が旅に出る理由はだいたい100個くらいあって――藤田君の日本一周編」

2012年03月24日

 

2010年の秋から冬にかけて、1人の大学生が日本一周の旅に出た。「自分探し」ブームの昨今、これだけならよく聞く話だが、彼の旅のユニークな点は、訪れた各都道府県で地方自治体やNPO団体の職員、そして大学生や地域住民に「まちづくり」に関する調査を行ったところにある。彼を旅へと駆り立てたものは一体何だったのか。そして彼は日本一周の果てに何をつかんだのか。

 

 

 

1 「Doまんなかモール」との出会い

 

旅に出たのは4年生の藤田真弥君。生まれも育ちも宮崎市という生粋の宮崎人だ。

 

 

「社会について知りたい」という漠然とした動機で地元の高校から本学に進学した藤田君だったが、入学後は何をしていいのかわからず、友達ととことん遊びつくす毎日だった。楽しくて充実している一方で、何かが物足りない。そんな葛藤を抱えているときに出会ったのが、宮崎市中心市街地活性化を目的に設立された商店街「Doまんなかモール」で活動する大人たちだった。

 

 

「まちづくり」「ボランティア」というと真面目で硬いイメージだが、「Doまんなかモール」中心メンバーの大人たちは「『まちづくり』と称して中心街を舞台に本気で遊んでいるように見えた」という。他人を楽しませるために、自分も楽しみながら成長できるフィールド。くすぶっていたエネルギーをぶつける対象が見つかった。

 

間もなく藤田君は大学の同級生と共に「Doまんなかモール」のミーティングに顔を出すようになり、学生ボランティアスタッフとして様々な企画に携わった。その中のひとつが、子どもが中心街を周遊するスタンプラリー「Doまんなかクエスト」だ。先日開催された「Doまんなかクエスト5」は新聞各紙でも紹介されたが、その第1弾を企画・運営したのが当時の学生スタッフ。初めての試みにもかかわらず約700人を動員し、人で賑わう地元の街を見て、藤田君はまちづくりイベントの魅力にとりつかれていく。

 

 

一方で、失敗も経験した。初めての自主企画として、同じ学生スタッフで本学同級生の板敷君、新村君らと戦隊ヒーロー「Doまんなかレンジャー」を結成。戦隊スーツに身を包んでイベントステージに出演し、Perfume『ポリリズム』のダンスを披露したところ、「街が止まった」と形容されるほど笑いが全く起こらなかったという。その他にも、市街地でのパレード企画が盛りあがらなかったことなどもあり、「街に求められていることと、自分たちがやりたいことは、必ずしもイコールではない」ことを学んでいった。

 

 

 

 

2 就職活動と「まち」

 

イベント活動に明け暮れていた藤田君も就職活動の時期を迎え、働くことについて真剣に考え始める。まちづくりに関わることができる職業として1番はじめに思い浮かんだのが、地元である宮崎市役所の公務員。しかし、宮崎市以外の街を観光以外の目的でほとんど訪れたことのない藤田君は、地元の街を客観視できていないことに気がついた。「Doまんなかレンジャー」の仲間として共に活動してきた板敷君と新村君が他県の出身であったこともあり、「自分は視野が狭いのではないか」という考えが浮かんで頭から離れない。この頃から、実際に全国各地を自分の足で訪れて、それぞれの街の現状や取組を見聞したいという思いが生まれてくる。

 

現状への違和感と旅への憧憬を決定づけたのが、日本全国を旅しながら各地の大学生の夢を集めているという早稲田大学の学生だった。最近の若者が「ゆとり世代」「無気力」とのレッテルを貼られることに反発し、積極的に社会へコミットしながら活動している日本全国の大学生の姿を様々なメディアで発信していく活動で話題となり、多くの新聞やラジオ等に登場している。藤田君はこのスタイルに感銘を受け、日本を一周しながら、各地の地方自治団体やまちづくりに関わるNPO法人の職員と面会して、それぞれの取組や考え方、街に対する思いをヒアリングして蓄積していくことを思いついた。

 

同級生が次々と就職を決めていく中、藤田君は「そんなことして何になる」「就職してから考えろ」と反対する周囲を説得し、全国の地方自治体や商工会議所に問い合わせ、アポイントメントを取りつけていった。そして2010年10月16日に満を持して最初の目的地である青森市へ出発する。

登山用ザックに夢と希望と最低限の衣料とiPadを詰め込んで出発!

登山用ザックに夢と希望と最低限の衣料とiPadを詰め込んで出発!

 

 

 

 

3 旅

 

約2ヶ月半の間に訪れたのは全国45都府県(青森→岩手→秋田→新潟→宮城→山形→福島→埼玉→神奈川→東京→茨城→千葉→栃木→群馬→長野→富山→石川→山梨→静岡→愛知→岐阜→福井→滋賀→京都→奈良→三重→鳥取→兵庫→大阪→和歌山→一時宮崎に帰郷→岡山→香川→徳島→高知→愛媛→広島→島根→山口→福岡→佐賀→長崎→熊本→大分→鹿児島→沖縄)。

 

 

事前にアポイントメントを取り付けてある街づくり関係団体、地元の大学、商店街、観光地を練り歩き、街の様子や街づくりに関わる地元の人々をじっくり観察していった。本記事ですべて紹介できないことが残念だが、実に3000枚を超える写真記録を撮りため、1000人以上の人々と対話する長旅であった。

出会った人々に、地元の特徴、良いところや悪いところをフリップに書いてもらった。

 

 商店街、観光名所、地元の人たちの交流、他大学の日常などの膨大な記録が、iPadに記録されている。

 

 

 

 

その中で最も印象に残っているのが、青森市のNPO法人ソーシャル・キャピタル・サービス青森が導入している街中ステーション「nico-home」だった。これは地域情報サイトと地域SNS※を融合させた最先端のユビキタス技術※による情報提供サービスで、地域情報発信と観光客の窓口としての役割を果たすものである。

街中ステーション「nico-home」。地域SNSサイトと連動した情報発信を行うほか、イベントスペースとしての役割も果たし、リアルコミュニケーションを創出する。

 

nico-home内に設置されている情報端末。単に情報を発信するだけではなく、行きたい場所まで携帯電話がナビゲーションしてくれたり、市民のエコ活動に対しエコポイントを付与する等の様々な機能を持つ。

 

 

 

Doまんなかモール」は「いかにおもしろいイベントをやるか」という目標を掲げ、年間230回ものイベントを重ね、中小企業庁によって「がんばる商店街77選」の「にぎわいあふれる商店街」に選ばれている。これに対して、ソーシャル・キャピタル・サービス青森はユビキタスネットワーク等のICT技術を駆使して人間のコミュニケーションのあり方を変容させ、青森市の商店街を活性化し、総務省によって「u-Japan大賞(地域活性化部門)」に選ばれている。「地域社会におけるまちづくり」というゴールは同じでも、そこに至る方法が様々であることに藤田君は大きな感銘を受けた。

 

SNS・・・参加するユーザーが互いに自分の趣味、好み、友人、社会生活などのことを公開しあったりしながら、幅広いコミュニケーションを取り合うことを目的としたコミュニティ型のWebサイト。

※ユビキタス技術・・・情報化社会において、コンピューティング技術がいつでも・どこにでも存在し、コンピュータの存在をもはや意識することなく利用できる、といった概念。

 

 

 

 

 

4 夢カフェ

 

2011年1月6日。宮崎に一時的に戻ってきた藤田君は、旅先で出会った様々な人たちを宮崎に招き、若者がカフェで将来のビジョンや野望をプレゼンする「夢カフェ」を開催した。関西大学で法学を専攻しながら議員事務所で政治家見習いとして勉強する学生。鳥取大学で地球環境について研究しながら世界平和のあり方を模索する学生。日本一周や農業に没頭する筑波大学の学生。宮崎公立大学からも「Doまんなかモール」の学生ボランティアを中心に10名が駆けつけて、それぞれの夢を語る。また、公務員の立場から社会の変革を試みる宮崎県庁の職員、情報サービスの一流企業を退職して新たなビジネスチャンスをうかがう社会人、全国の学生から出版企画を募る「出版甲子園」の実行委員、学生の長期実践型インターンシップや企業支援を行うNPO法人ETIC.の職員、県議会議員、農業支援のために銀行に就職した銀行マン等様々な職種の社会人も集まり、学生同様に夢を語り、学生の夢について意見を述べた。

カフェバーのステージで夢を語る学生

 

負けじと語る宮崎公立大学の学生

 

「夢カフェ」に集まった学生及び社会人は約30名で、藤田君という1人の学生を媒介してつながった。名刺を交換し、自分の身の上や将来の目標などとめどなく語り合う宴は5時間にも達した。

司会進行を務める藤田君。

 

 

 

 

 

6 就職活動

 

旅を終えた藤田君は、3月から少し遅めの就職活動を始めた。旅を通じて街や人生の多様性を実感していた藤田君は、SPI対策や就職面接練習等の画一的でオーソドックスな訓練を重要視せず、人事社員が自分の経験や考えを「おもしろい」と評価してくれて、なおかつ藤田君も人事社員を「おもしろい」と感じられるような企業に就職したいと考えた。「就職活動って自分という人材がその会社のミッションを遂行する上で有益かどうかを話し合うマッチング作業だと思うんです。だから、画一的な就活対策に時間を割くよりも、素直に『自分がどのような人間で何をやりたいのか』を会社の代表である人事の方に伝えることに集中しました」

 

 

その結果、藤田君のユニークな活動経歴と具体的なキャリアビジョンは高く評価され、ITベンチャーや地方銀行等複数の内定を勝ち取ることに成功した。

 

 

 

 

 

 

7 今後の展望

 

Doまんなかモールでの活動、日本全国数多くの人々との出会い、そして様々な「まちづくり」の事例収集から、藤田君は「まちづくりとは人づくりであり、仲間づくりである」という結論に達したという。

 

 

Doまんなかモールにおいて、学生ボランティアはお客さんではなく、1人のプレイヤーとして大人と同等に扱われる。成功したときは褒められるが、失敗した時はその原因を厳しく指摘される。そこにあるのは、実社会における上司から部下への指導、すなわちインターンシップ的な環境なのである。そこに学生は自らが実社会で通用する人材へと成長する可能性を見出している。だからこそ、数百人もの学生が持続的にDoまんなかモールの活動に身を投じているのだ。街が人をつくる、すなわち「人づくり」が行われている。

 

 

また、われわれが地方社会について論じるとき、「人が少ない」「よそ者を受け入れない」等の数的不利や情報の閉鎖性を想起しがちであるが、藤田君が目の当たりにしたのは、そのような地方社会のあり方を疑問視し、ITの最新技術やアイデアで打破しようと奮闘する人々だった。そして、人と人・街と街をつなげて地方というハンディキャップを無化し、ユビキタス社会を実現させること、すなわち「仲間づくり」が重要なのだ。

 

 

「学生が自ら実践する地域イノベーションの創出」と題した卒業論文も無事提出し、卒業を間近に控えた藤田君。「僕は決して優等生ではなかったけど、毎日真面目に講義に出席して3年生の秋に判を押したようにスーツに着替えて就活することだけが大学生活だとは思えなかった」と5年間を振り返る。彼のユニークな選択肢が正しかったかどうかは、今春から始まる社会人生活で明らかになっていくだろう。しかし、好奇心と自信に満ちた彼の眼が、すでに答えを物語っているように思える。

 

 

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