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教育研究

【1/9 書評追加】阪本博志准教授が著書『大宅壮一の「戦後」』を出版しました。

2020年01月09日

阪本博志准教授(専門:大衆文化・出版文化論)が、人文書院より11月に『大宅壮一の「戦後」』を出版しました。本書の概要について、今後の大宅壮一研究に対する期待とあわせて、インタビュー形式にてご紹介します。2019.12.sakamoto.jpg

-この書籍に関する研究を始めたのはいつ頃ですか。

 2008年5月に1冊目の著書『『平凡』の時代――1950年代の大衆娯楽雑誌と若者たち』(昭和堂)を上梓するのと前後して、岩波書店の雑誌『文学』2008年3・4月号に「大宅壮一研究序説――戦間期と昭和三〇年代との連続性/非連続性――」を発表しました。

 本書は、それ以降この約10年間に書いた拙稿を1冊にまとめたものとなっています。

 

-研究に着手したきっかけを教えてください。

 『『平凡』の時代』でテーマにした月刊誌『平凡』のように、戦後のメディア史において重要な存在であるにもかかわらず、先行研究が限られていたことです。

 

-書籍の概要をご説明ください。

 本書は、戦後「マスコミの王様」と呼ばれた評論家・大宅壮一(1900年~1970年)をテーマにした初めての学術書です。

 大宅は1920年代に編集・評論活動を始め、昭和30年代に当たる時期(1955年~1964年)に最盛期を迎えました。

 この大宅の「戦後」を把握するべく、本書ではふたつの観点からアプローチを図っています。

 ひとつは、大宅の戦争体験を踏まえて大宅の「戦後」に迫るということです。具体的な戦争体験としては、日中戦争時の海外ルポルタージュと、日中戦争時からアジア太平洋戦争時にかけて従事したプロパガンダ映画です。

 もうひとつは、"「裏街道」の大宅壮一"の記憶をとりもどすということです。具体的には、今日、大宅に対する記憶としては、1956年の流行語「一億総白痴化」に象徴される造語と巧みな比喩を駆使した評論家、すなわち"「一億総白痴化」の大宅壮一"という認識が一般的です。しかしながら大宅は、海外旅行が自由化される1964年4月1日よりも前に、精力的に海外を旅し、「裏街道」シリーズというルポルタージュを著していました。この1964年が昭和39年にあたることからも、全盛期の大宅は、"「一億総白痴化」の大宅壮一"であるとともに、"「裏街道」の大宅壮一"でもあったわけです。さらに、現在では忘れられた後者の活動は、上記の日中戦争時の海外ルポルタージュの延長線上になされたものでした。

 以上ふたつの観点から、大宅の「戦後」に迫っています。その過程では、たとえば、戦時中と大宅の最盛期とのあいだに位置する時期である、占領期の大宅についての通説の誤りを、当時の大宅の著作物と照らし合わせて修正するなど、あらたな知見を導き出しています。

 

-読者に伝えたいことはなんでしょうか。

 大宅壮一は、1970年11月25日の三島由紀夫事件の3日前である11月22日に他界しました。すなわち、明年2020年の11月は、大宅没後50年・三島事件から50年の節目になります(本書は、ちょうどその1年前の2019年11月22日にネット書店で発売になりました)。没後50年を契機に大宅にかんする議論が活発になされることを期待しています。本書がそのための何らかのたたき台になれば幸いです。

 

-最後に、一言お願いします。

 本書を刊行するまでにいたる調査研究の過程では、多くのかたがたにご理解とご協力をいただきました。この場をお借りして改めて心より御礼申し上げます。

 

なお、版元による本書の紹介ページについては、こちらからご覧いただけますので、あわせてお読みください。

また、『北海道新聞』12月22日付朝刊書評面の「今年の3冊」という企画にて、武田徹氏(ジャーナリスト、評論家、専修大学教授)による書評が掲載されていますので、こちらもあわせてご覧ください。

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