2011年7月1日(金)第90号 『취중진담――ホストファミリーのススメ』

ホスト ファミリー [host family]

ホームステイの留学生を受け入れる家庭。(三省堂『大辞林』より)

 

 

毎年恒例の行事ですが、本学の協定校の1つである韓国の蔚山大学から、6月から7月までの1カ月間、短期研修生として20人の韓国人大学生が宮崎を訪れ、本学で日本語や日本文化を勉強し、本学の学生と生活を共にして交流します。そのプログラムの一環として、一般家庭へのホームステイが6月初旬にありました。韓国人留学生が一般的な日本人家庭で金土日の3日間を過ごすのです。学務課コバヤシにも、妻と3歳の息子で構成されるささやかな家庭があるので、今回のホストファミリー募集に手を挙げ、一般市民として1人の韓国人女子学生を受け入れることになりました。

対面式での記念写真。

対面式での記念写真。

 

実は私は英語が少々話せるだけで、韓国語が全く話せません。本学が一般市民を対象に無料で開講している韓国語の語学講座を今年5月から受講していますが、忙しさにかまけてほとんど出席できていないのが実情で、基本的な母音と子音、あと簡単な挨拶ができる程度。留学生とコミュニケーションがとれるかどうかが不安でしたが、金曜日の夜に対面式で出会った彼女は見事に流暢な日本語を操るのでびっくりしました。

 

 

ホストファミリーは家族なので、私たちと彼女との間柄が重要です。妻は「자매」(お姉さん)、私は「삼촌」(おじさん)。あまり納得はできませんが、かわいい姪の誕生です。

 

 

「すき焼きが食べてみたい」という彼女のリクエストに応えて、金曜日の夕食は自宅ですき焼き。スーパーに買い出しに出かけて、宮崎牛と観音池ポーク、春菊、白菜、長葱、椎茸、糸コンニャクを購入。聞くところによると彼女はすき焼きを食べるのが人生で初めてだということなので、全日本のすき焼きを代表することになるかと思うとプレッシャーが重くのしかかります。実家のすき焼きの味を懸命に思い出しながら割下を調合し、何とかコバヤシ家のすき焼きが完成しました。

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ご飯を食べながら、いろんな話をしました。家族のこと、お互いの国の習慣、好きな音楽、将来の目標、蔚山の街のこと、韓国人の学生生活のこと、恋愛事情、兵役について、お酒について、などなど。お酒に強い彼女に「酒豪」という日本語を教えてあげました。韓国語では「酒鯨」と言うそうです。この表現においては韓国の比喩の方が迫力がありますね。

 

 

翌日土曜日はあいにくの大雨。午前中は綾町の「綾国際クラフトの城」で陶芸を体験してもらいました。

「陶芸に正解はない」そうです。深い!

「陶芸に正解はない」そうです。深い!

完成!

完成!

 

 

午後は自宅でタコ焼きパーティー。花金でお馴染みのタナベさん、ウエゾノさん、ハマダさんに加えて、北海道出身の旧学友会長堀田君、沖縄県出身で学友会役員の(そして先日の中国語弁論大会で優勝するほど中国語に長けていて、なおかつ韓国語も勉強している)新垣さんを招いて、日本各地の料理の話で盛り上がりました。

「たこ焼きは人生だ!」

「たこ焼きは人生だ!」

キムチ入りインターナショナルたこ焼き。

キムチ入りインターナショナルたこ焼き。

 

 

この日の夜は、日本の一般的な居酒屋を知ってもらうために、自宅近所のホルモン屋さんへ。ホルモンの油で勢いよく燃え上がる炎や芋焼酎、そして偶然居酒屋に居合わせた人間で形成される即時的な「居酒屋コミュニティー」そのものが、彼女の眼には印象的に映ったようです。

 

 

かなり昔の話になりますが、2009年11月12日に本学で開催された国際シンポジウム『韓国の人類学者が見た日本』で、慶北大学校考古人類学科の劉教授が「焼酎コップ越に見た韓日文化の比較」というテーマで発表をされました。その際に、教授は「韓国人が既に形成されているコミュニティーの構成員同士の結束をさらに強めるために飲みに行くことに対して、日本人は(特にスナックに言及しながら)初めて店を訪れる見知らぬ人間同士が新しくコミュニティーを形成する場として飲み会を位置づけている側面がある」と指摘されていました。留学生にその点について尋ねてみると、やはり韓国人の大学生でも、すでに存在する友人関係や上下関係をさらに深めるために飲みに行くので、1人で飲むことはほとんどないそうです。

 

 

和やかに居酒屋で食事をしているとき、店のテレビが領土問題に関するニュースを流し始めました。すると、彼女の表情が少し緊張しました。日本と韓国の間には、昨今の韓流ブームの影響下での活発な文化交流がありますが、歴史認識や領土問題をめぐる負の側面も存在します。

 

私は、「これはあくまで私見だけれども、お互い大学で学んでいるもしくは学び終えた人間として、この問題を『気まずいトピック』として、もしくは感情的になることを恐れて知らんぷりしてしまうよりも、客観的事実を冷静に認識し、お互いを尊敬し合いながら今後どのような関係性を構築していくべきかについて意見を交換する方が、より深い交流ができるのではないだろうか。もちろん嫌でなければの話だけれども」と話しました。

 

 

すると彼女はにっこり笑って、「私もそう思います」と同意してくれました。その後、韓国と日本両国の政治や歴史について意見を交換していく中で、私がこれまでマスメディアの報道による情報で自分の頭の中に作り上げていた、韓国人の若者の政治や歴史に対する攻撃的な姿勢についてのイメージは、完全に変わりました。そのことを彼女に話すと、「취중진담」という興味深い単語を教えてくれました。これは「お酒に酔って心の壁がなくなったときに話す、真剣な話」という意味だそうです。韓国ではこのタイトルのラブソングが有名で、気の弱い男の子がお酒の勢いで女の子に告白するような歌詞らしいのですが、ホストファミリーという家族の私たちが交わした「취중진담」は、お互いの国の文化をより深く理解し合うきっかけとなりました。そして、そのような深い話を外国人と外国語でしっかりと話すことができる、自分よりも一回りも年下の姪を心から尊敬しました。

 

 

 

日曜日はかろうじて雨がやんでいたので、平和台公園を散策した後、お寿司を食べて一路日南へ。鵜戸神宮にお参りしました。移動の車中で彼女は3歳の息子とずっと遊んでいて、息子は突然できた「누나」(お姉ちゃん)にすっかり夢中です。

世界級の景観を誇る堀切峠!

世界級の景観を誇る堀切峠!

ひんやり涼しい鵜戸神宮の洞窟内。

ひんやり涼しい鵜戸神宮の洞窟内。

 

 

日曜日の夕方には、留学生を宿舎に送り届けてホームステイは終了です。ただ、本学での短期留学は7月まで続くので、その後も青島まで刺身を食べに行ったり、家族で彼女の日本語弁論発表大会を見に行ったりしました。

 

カンパチが一番人気でした。

カンパチが一番人気でした。

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そして本日7月4日の午前8時、韓国人留学生20名は、1カ月間を共に過ごした本学の学生パートナーやホストファミリーと最後の別れを惜しみながら、次の研修先である福岡へ旅立って行きました。

 

別れがつらくてなかなかバスに乗れません。

別れがつらくてなかなかバスに乗れません。

 

「どうも、堀田です。」笑えていません。

「どうも、堀田です。」笑えていません。

 

まさに「さよならバス」。

まさに「さよならバス」。

 

 

別れ際に、私の姪が手紙をくれました。そこには「地元(韓国)以外で住みたいと思った街は、宮崎が初めてです」と書かれていて、胸が熱くなりました。そして手紙の最後には、「『さよなら』ではなくて、『じゃあまた』と書きます。だって家族ですから」

 

 

私は1979年生まれで典型的な核家族で育ちました。盆と正月に親戚一同が本家に集まるような風習もありませんし、そもそも親戚の数が多くありません。しかし今日、私たちには新しい家族が増えました。

 

 

もしこのブログの読者の中で一般市民の方がいらっしゃいましたら、ホストファミリーを体験されることをお勧めします。異文化を知ることで自文化を見つめなおし、その意味を考えることはとても刺激的です。そして何より、血縁を超えた新しい家族ができて、その関係はもしかすると一生続くのかもしれないのですから。

 

早速PCのデスクトップに記念写真を設定しました。

早速PCのデスクトップに記念写真を設定しました。

そして、もしこのブログを本学学生が読んでいるなら、短期研修受け入れの際に留学生のパートナーを体験することをお勧めします。今日の別れの時にパートナーが流していた涙が、その理由を物語っています。こんな経験は人生で何度もできることではありません。思い立ったら事務局学務課国際交流担当タナベさんに相談してみましょう!

 

 

以上、別れの余韻でいささかセンチメンタルな学務課コバヤシがお送りしました・・・