2011年9月9日(金)第100号                          『引越しの時に荷物を整理していたら思い出の品がいっぱい出てきて作業が一向にはかどらない、そんな気持ちわかるでしょう?』

 クラブ・サークル活動。それは大学生活の醍醐味と言っても過言ではない。時には甘く切ない蜜柑のごとき思い出をもたらし、時には二度と思い出したくもない壮絶な経験と化す。もしくは、二度と思い出したくもない壮絶な経験こそが甘く切ない蜜柑のごとき思い出だったりもする。体育会系の厳しい練習を経験した方であれば思い当たる節がおありだろう。

 

 ともかく、本学のキャンパス内ではクラブ・サークルの数だけ蜜柑色の青春物語が日々生みだされている。「硬式野球部」「吹奏楽部」などの伝統的なクラブから、「まち中お花畑サークル」「Mr.Children同好会」などのユニークなサークルまで、実に46団体が活発に活動している。最近であれば「オレンジの会」という手話サークルが新規設立され、学務課コバヤシは妻夫木聡が主演を務める某有名青春ドラマが懐かしくなって、ケーブルテレビで再放送を録画した。

 

 一方で、部員が活動を楽しむだけではクラブ・サークル団体を存続させることはできない。当然のことながら、団体の活動方針や掟、部室、必読書籍、バーベキューの網、なかなか卒業しない先輩、余った部費等を引き継いでくれる後継者を一定数見つけなければ、その団体は一代限りで潰えてしまう。盛者必衰。本学においても、これまで数々の団体が栄華を極め、しかる後に姿を消していった。『週刊花の金曜日』記念すべき第100号は、惜しまれつつも今年の3月をもってその長い歴史に幕を閉じた「放送研究会」に焦点を当てることから始めたい。

 

 

 9月6日火曜日、澄み渡る秋晴れの下、学務課コバヤシは文化系クラブ・サークルの部室が軒を連ねるクラブハウス棟に向かった。今年3月末に廃部となった放送研究会の部室を掃除して、「学生保育サポーター」というボランティアクラブに引き渡すためだ。大学職員とはそんな仕事もするのかと訝しがる読者もいるだろう。大学職員、とりわけ「学生」と名のつく部署は、およそ事務員のイメージからかけ離れた多岐にわたる業務を担当する。何せ大学が教育機関である以上、「学生」に関係しない仕事などあろうはずがないのだ。営業マンのようにスーツを着込んで得意先を訪問することもあれば、学生と学内を走り回ることもある。終日学生の相談対応に追われることもあれば、山のようにうず高く積み上げられた書類の山を「ジムジムジムジム」と呟きながらひたすらさばく一日もある。もしあなたが大学職員という仕事に「1日中ラップトップパソコンの前で難しい顔をしながら書類を作成している」等のイメージを抱いているのなら、そんな職員の方がむしろ少ないということを現場の私が証言しよう。

 

 話題を元に戻すと、本来であれば部室を掃除するのは当然部員である学生である。しかし、廃部となった団体の部室であれば話が違ってくる。掃除すべき学生がいないのだ。

 

 活発に活動していたクラブは突然廃部になるわけではなく、ソフトクリームが溶けていくようにゆっくりと崩壊の道程をたどる。伝統あるクラブであればなおさらだ。「先輩から引き継いだクラブをおめおめ私の代で終わらせるわけにはいかない」「でもいかんせん部員がいない。新入部員もいないし、現役部員すらほとんど来ない」「ああ、もう限界だ」「いや、せめて年度末までがんばってみよう」「やっぱり無理か・・・」 大政奉還を目前にした徳川慶喜のごとき葛藤の果てに、クラブは廃部となるのである。その結果残るのは、最後までふんばった部長と代々引き継がれてきたガラクタや書籍の山が屹立する部室だけである。誰がこの徳川慶喜に江戸城の清掃を命じることができよう。

 

 

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 かのような事情により、もはや所有権をたどることも不可能な(たどったところでその所有権を誰も行使しないであろう)ガラクタの撤去のために、私はかつての放送研究会の部室を訪れた。

 

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 部室内には過去の遺産が山積している。壊れたテレビ、コンポ。ビデオデッキ。パラボラアンテナ。デスクトップパソコンの本体ほどもあるラジオチューナー。首の折れた扇風機。ビデオカメラの映像に手書き入力できる機材。マイク。MDレコーダー。おびただしい数のカセットテープとビデオテープ。オーディオ機器の進化に感嘆を覚えつつも、部室外に運び出した。正確な記録は入手できなかったが、放送研究会はおそらく開学間もない1990年代半ばに創部されたはずだ。録音媒体としてのカセットテープはMDへと進化し、現在はICレコーダーやスマートフォンで手軽に録音できる。過去の録音機材は無用の長物と化し、かといって捨てるには愛着がわきすぎており、長年この部室の一角に鎮座ましましてきたのだ。

 

 

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 壁に目を転じると、歴代の部員の肖像が並んでいる。心なしかセピア色だが、撮影上の効果なのか時の流れによる風化なのか判別がつかない。

 キャビネットの中には、『NHK日本語アクセント辞典』『マスコミ就職読本』のような放送部らしい書籍から、宮崎が誇るタウン情報誌『タウンみやざき』がどっさりと。表紙デザインからも時の流れを感じる。 

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 他にも、ラジオ番組の企画書や日誌が眠っていた。日誌は部室を訪れた部員が交代で書き残していたようであり、日付と他愛のない日常が交換日記のごとく連綿と記されている。「6月19日:ちょいひさしぶりの部室だ。土・日のバイトはホントきつかったよー!せんぱい来ないなー。ちょっと宿題があるんで帰りますよー」「6月20日:今日は収録です。から騒ぎです。から騒ぎます。」「6月22日:なんか蒸し暑い。なのに七分そでの服を着てきてしまった。暑いよー!来週のRadioもがんばるぞ!きちんとまとめられるように。今日はちゃんとごはんを作ろうかなと思ってます。」等々。これはもう完全に某青春ドラマのオレンジノートである。もちろん登場人物はニックネームばかりでさっぱりわからないが、今から10年以上も前にこの狭い部室で繰り広げられていた青春物語を垣間見た気がして、ほっこりした気持ちでノートを閉じた。

 

 

 

 さらにキャビネットを整理すると、ちょうど10年前の2001年度凌雲祭(本学の大学祭)のパンフレットが出てきた。

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 当時私は大学4年生だったので、その年の凌雲祭のことはよく覚えている。「新・大航海時代」というテーマを掲げ、1~3年生の後輩たちが一丸となって作り上げた祭だった。パンフレットの紙面上で当時の実行委員長と内嶋元学長がいきなり対談しており、学長が「過去の『大航海時代』においては、人間は何らかの新しい情報と香辛料などの富を求めて船を出していたわけだが、現代において君たちは何を求めるのか?」と問えば、学生は「例えば人間同士の新しい関係性のあり方を模索します」と答えている。学長が「大学の学園祭は概してアミューズメント的なイベントが多すぎて残念」と評すれば、学生が「ではシンポジウムの開催を検討するので、学長はゲストパネリストとして参加してください」とやり返す。当時の後輩たちを大学職員として客観的に見てみると、結構面白いことをやっていたのだなあと感慨深い。

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学内地図も宝島風。

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テーマにそってます。

テーマに沿ってます。

テーマにそってます。

徹底してテーマに沿ってます。

徹底してテーマにそってます。

やり過ぎ感が否めませんが、やはりテーマに沿ってます。

やり過ぎ感が否めませんが、やはりテーマにそってます。

当時の放送研究会もがんばっています。

当時の放送研究会もがんばっています。

熱い対談です。

熱い対談です。

 また、大学のトップである「学長」が気さくに学生との対話に応じてくれるアットホームな校風は、今も昔も変わっていない。私が10年前に卒業論文で行き詰まり、講義棟のソファーでうなだれていた時、当時の内嶋学長が「しけた顔してるな。コーヒーでも飲むか?」と声をかけてくれて、研究室で三角フラスコで淹れたコーヒーをご馳走してくれたことを今でもおぼえている。

 

 

 

凌雲祭には数多くのクラブ・サークルやゼミが出店しており、その売り上げは各団体の年間活動予算における大きな収入源となっている。以下は、当時のパンフレットに掲載されていた出店紹介の一部抜粋である。

 

コロンブス関係なし。

コロンブス関係なし。

鬼の洗濯岩も関係なし。

鬼の洗濯岩も関係なし。

この屋号を許可した大賀先生が素晴らしすぎる。

この屋号を許可した大賀先生が素晴らしすぎる。

商品は水分。抽象的すぎる!

「よね?」って言われても・・・

事務的ですなあ。

事務的ですなあ。

凄い。さすが想像力と創造力の文化系。

凄い。さすが想像力と創造力の文化系。

怖いよ。

怖いよ。

ファーストフードとの対比という販売戦略が素晴らしい。

ファーストフードとの対比という販売戦略が素晴らしい。

「ドグマ」が大学生らしい。でも「腸詰め」って。

「ドグマ」が大学生らしい。でも「腸詰め」って。

川瀬先生、ほんまですか!?(笑)

川瀬先生、ほんまですか!?(笑)

南国の地でなぜか北国の特産品を猛プッシュ。

南国の地でなぜか北国の特産品を猛プッシュ。

それこっちに聞くなよ!(笑)

それこっちに聞くなよ!(笑)

 

  

 

 いかがであろう。青春と屋台の香りが漂ってきたのではないだろうか。この無理やりさ、拙さ、少しピントがずれたエネルギーのほとばしりこそが、大学時代そのものであり、クラブ・サークルらしさなのである。屋台でフランクフルトを焼いたりラジオ番組を制作したりすることは、大学生の本分ではない。それらの活動に全力で取り組んだところで、就職活動に有利に作用したり大金を儲けたりするわけではない。しかし、しかしである。一見無益に思えるこれらの活動の中でこそ、大学生はかけがえのない一生の友人を得て、気に食わない人間との付き合い方を知るのである。大学卒業後10年20年が過ぎたころ、「あの頃は何であんなどうでもいいことに夢中になれたんだろうなあ」と目を細めながら、当時の友人と杯を傾けるのである。個人的な利益のみを追従する無駄を一切省いた大学生活を否定する気はないが、真に魅力的な人間とは、魅力的な友人・仲間に囲まれた人間ではなかろうか。魅力的な友人は挫折したあなたを叱咤激励し、慰め、引っ張り上げてくれる稀有な存在である。そして、あなたは「奴と対等な友人でありたい」と願うゆえに、次の機会には挫折した友人を叱咤激励し、慰め、引っ張り上げるのだ。

 

 

 時は流れて2011年、10年前と同じように宮崎公立大学では凌雲祭実行委員が準備に取り組んでいる。総勢277人の大組織なので、議論の衝突も大小たびたびあり、意思の伝達や合意の形成も一苦労だ。そのような学生の青臭い格闘の果てに作り上げられる祭こそが凌雲祭なのである。司会のトークが冴えわたるステージイベント、キャンパスに鳴り響くバンド演奏、クールなダンスパフォーマンス、講義室での研究発表、屋台から立ち上る美味しそうなにおい、阿鼻叫喚のお化け屋敷、子どもたちのスタンプラリー、フリーマーケット。老若男女が笑顔でキャンパスを行き交う2日間。本学凌雲祭からほとばしる青春エナジーと大学祭独特の雰囲気を、読書諸賢も11月5日(土)と6日(日)の2日間にぜひ体験して欲しい。学生手作りの凌雲祭ウェブサイトも近日中に公開されるので、こちらもご覧いただけると幸いである。

 

 

 そして、受験生の読者が本学に入学した暁には、積極的にクラブ・サークル活動に参加して欲しい。本学の学生は例年80%以上がクラブ・サークル活動に参加しており、この数値は他大学と比較してもかなり高い。そして、あなたの意向に沿う団体がなければ、ぜひ新たに設立して欲しい。平成23年度だけでもすでに5団体が設立されている。初めの第一歩を踏み出さないことには歴史は始まらないのだ。

 

 

 

 以上、最近記事ごとに文体を変えすぎてそもそも自分がどんな文章を書いていたのか思い出せなくなっているコバヤシがお送りしました。

 

 

 

 『週刊花の金曜日』も創刊約2年目にして記念すべき第100号を世に送り出すことができました。これも温かく見守って下さる読者の方々のおかげです。これからも南国宮崎に位置するアットホームなコミュニティカレッジの日常を発信していきますので、よろしくお願いいたします!!